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5月、田植えを終えた水田は鏡のように周囲の風景を映し込み、一年でもっとも美しく、生命力を感じる季節。 昭和30年代の田植えの記憶を綴ってみます。 田植えは一家総出でした。先に苗代に植えてある苗を抜き、藁一本で一握りの束にし、両手で根に付いた泥をジャブジャブと水で洗って落として行きます。そうしないと植える時に根が絡まり、なかなか苗が別れなくなってしまうからです。 |
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稲刈りは時々腰を伸ばせますが、田植えは向こうの畔に到達する迄、ずっと腰を曲げっばなしでとてもきつい労働でした。それだけに午前10時、午後3時の一服はとても待ち遠しく、嬉しいひとときでした。休憩時間、母親が麦茶を入れたヤカンとパンを持ってきます。こは小麦粉に卵を入れ蒸したもので、ほんのり甘く粘りがある食感でいつかまた食べて見たいと思っています。 家の東側が玄関、他の三方は田んぼに囲われていました。家より北側を「したっけた」(下方)南側を「うわっけた」(上方)と呼んでいました。だいたいしたっけたを先に植え、終えるとうわっけたへ移動していきました。その理由は分かりませんが、どちらも西に田んぼが広がっているのでいつも夕日が見えます。一日の作業が終わり、植えたばかりの苗がそよそよと風でなびき、田んぼに夕日がキラキラと光っていたことを覚えています。 機械化で得たものはとても多い。重労働からの解放、大型機械の導入による効率化。でもそれは一家総出の農作業を昔のものにしました。それを批判するつもりは毛頭ありません。自分もそれ故今こうしているのですから。ただ、これからそんな価値観はどうやって維持したり、伝えられたりしていけるのか? 日本全国の消えゆく限界集落の事を思い浮かべながらも、いや諦めるべきではないなどと微かな可能性を考えたりしているのです。 |
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● <なぐも・かつし> デザイナー ナグモデザイン事務所代表。新潟県六日町生まれ。 家具や景観プロダクトを中心に活動。最近はひとやまちづくりを通したデザインに奮闘。 著書『デザイン図鑑+ナグモノガタリ』(ラトルズ)など。 日本全国スギダラケ倶楽部 本部 facebook:https://www.facebook.com/katsushi.nagumo エンジニアアーキテクト協会 会員 月刊杉web単行本『かみざき物語り』(共著):http://m-sugi.com/books/books_kamizaki.htm 月刊杉web単行本『杉スツール100選』:http://www.m-sugi.com/books/books_stool.htm 月刊杉web単行本『2007-2009』:http://www.m-sugi.com/books/books_nagumo2.htm |
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