美山木匠塾、そしてスギダラケ倶楽部

特集　第三回スギダラ全国大会 in 吉野

美山木匠塾、そしてスギダラケ倶楽部

文•写真/ 羽原康成

1.はじめに

　２０１３年度末を締めくくるイベント、吉野貯木まちあるきと、第三回スギダラケ倶楽部全国大会に、美山木匠塾の塾長兼事務局長として参加させて頂いた。

３月29 日朝、桜が満開の川上村匠の聚（たくみのむら）から、吉野町へヤタイ制作に向かう美山木匠塾の塾生たち。

　木匠塾（もくしょうじゅく）って何だろう？と思われる方は多いかもしれない。木匠塾については、月刊杉58号の特集記事において詳細な説明があるので、そちらを参照頂きたい。
その記事を寄稿した戸田氏より「九州へ転勤する事になり、関西の木匠塾に関われなくなった。羽原ならやってくれるやろ？」と、もう決まっているかのように声を掛けられ、2013 年度の美山木匠塾の塾長と事務局長を、引き受ける事になった。
そんな僕は、杉コレクションの過去受賞者として、月刊杉71号に「ashiato のキセキ」を寄稿している。つい最近のような気もするが、木匠塾の塾長兼事務局長として、再び月刊杉に寄稿する事になるとは思いもしていなかった。
とにもかくにも、木匠塾経験者で、スギダラケ倶楽部の会員の僕が、美山木匠塾をまとめる立場になり、スギダラケ倶楽部の全国大会に参加した事から、この原稿を書く切っ掛けが生まれた。人生、何があるか分からないものだ。そんな人の縁、スギな縁に感謝したい。

2.木匠塾について考えてみる

　木匠塾は、月刊杉58号の特集記事にもあるように、全国の林業地に活動が広がっており、美山木匠塾も、その活動の一つ。1999 年、北山杉の生産地でもある京都府美山町において始まった。設立当初からの参加校は既になく、現在は京都府立大学の「環境共生教育演習Ⅰ」という単位が取れる演習となっている。スギダラ南雲親分より「木匠塾は真面目すぎないか？」と、第三回スギダラ全国大会の席で言われたが、学生に対する真面目な木造建築・森林教育がもともとの出発点であり、一部の大学においては単位としても認められる活動なので、真面目な印象を目指している、とは言えるかもしれない。
　木匠塾は大学の研究室が、1991 年より始めたインターユニバーシティーのサマースクールという事もあり、どの木匠塾であっても、その運営組織の形態は、参加大学＝教員＋学生（建築・環境系学科）という図式を基本としている。そして、木匠塾開始から23 年を経た今も、各活動地域において木造加工物を学生が企画・設計・制作してゆくスタイルに大きな変化はない。木匠塾では、技術力のない学生が、実社会ではほとんど扱う事のない丸太を使いながら、木造構築物を制作する。そのため、木匠塾で制作するモノは、惰性で図面を引いて出来上がる実社会で制作される木造建築とは異なったモノとなり得る。複雑な加工ができないからこそ、技術力に頼らず、シンプルに、作りたい形へいかに落としこんでいくか、を考えなければならない。モノの形を構築する力が、これら作業の積み重ねにより鍛えられる。とは言え、設計者として実務を行うようになった木匠塾経験者として、今までの木匠塾の活動を見ていると、考えなければならないと感じる事柄もそれなりにある。いくつか列挙すると、地域を出ない活動、需要の少ないハコモノの制作、単位が認定される授業となることで起こる弊害など、だろうか。また、木匠塾開始当初は、学生が構築物を制作するような林業地での活動はほとんどなかったが、今は大学と林業地の提携などにより、木匠塾に類似した多くのワークショップが開催されるようになった。この事から、木匠塾も時代の流れに合わせ、活動形態を変様させていく時期に差し掛かっていると感じる。
とりあえず僕は新米塾長なので、木匠塾についてあまりよく分かっていない立場ではあるが、問題点と感じる物事を自分なりに改善すべく、いくつかの新たな活動を実験的に行う事とした。

・サークル的な木匠塾
　先にも書いたが、木匠塾は参加大学＝教員＋学生（建築・環境系学科）が集まり、運営される。美山木匠塾においては、京都府立大学が教員＋学生という形でサマースクールに参加しているが、通年の活動においては、教員の有無、建築・環境学科等の専攻に限らず、木匠塾の活動に参加したいと希望する学生を集める事とした。結果として2013 年度の美山木匠塾は、京都府立大学を軸としながらも、摂南大、神戸大学、京都大学の学生が美山木匠塾の活動に参加した。また、建築、環境デザイン、森林科学や国際文化学など、多様な専攻の学生を巻き込む事となった。

・川下企業見学会
　地産地消で木材を活用する事は、林業の観点から言えば良いことかもしれない。実務経験者としては、地産地消の難しさを実感できるが、そもそも実務経験のない「真っ白な学生」に、地産地消は大切だからと、地域の中で地域の物を準備して、地産地消の制作活動ができたとしても、参加学生が地産地消の難しさを実感できず、問題点がどこにあるのかを探れない。川上地域に篭っているだけでは、世の中の木材需要の問題点を実感する事は難しい。だからこそ、世の中の最前線で生き抜く様々な川下企業を見学し、何らかの実感を掴む必要があるのではないか。その思いから、美山木匠塾においては川下地域の企業見学会を行う事にした。

・地域外活動
　日本各地の林業地は、同じようでありながらも、その場所によって状況が違うものだ。第三回スギダラケ倶楽部全国大会が行われた吉野は、緻密でまっすぐ通った年輪が特徴的な吉野材の生産地。植林から300 年近い杉の森も存在する。美山木匠塾の活動拠点である京都府南丹市美山町は、床柱などの銘木で有名な北山杉の生産地域であり、杉は植林からおよそ40 年で伐採される。そのため、美山町では若い杉木立の山並みが主な風景となっており、同じ杉の森と言えど、吉野とは森の印象が違う。それはそれぞれの地域の得意分野が異なる事から生まれた風景の違いでもある。他の林業地も踏まえた上でなければ、その地域の特徴も実感できないと思うし、特徴を活かしたデザインを生む事も難しいのではないか。そのため、美山木匠塾においては、美山町以外の地域に出向き、制作活動を行う事とした。もちろん、それが最終的に美山町への地域貢献につながってゆくストーリーが、最低限盛り込まれる必要はある。前振りが長くなっているが、今回、美山木匠塾が吉野貯木まちあるき＋スギダラ全国大会に参加した理由はここにある。

美山町とは異なる地域の製材所や企業の見学を行うことで、林業地の違いを実感できる活動になる。

2013 年度・美山木匠塾のこれらの活動については、Facebook の美山木匠塾のページから確認できるので、興味のある方はそちらをご覧頂ければと思う。

3.吉野貯木まちあるきとスギダラケ倶楽部全国大会

　スギダラケ倶楽部と木匠塾は、月刊杉66号を見て頂ければその因縁（？）が見て取れる。東日本大震災の発生により延期となった木匠塾VS スギダラin 秦野は、まだ開催されていない。その事もあり、第三回スギダラ全国大会で何かしましょう！と、2014 年に入って早々、スギダラ関西支部長の石橋さんよりお誘い頂いた。京都の居酒屋でお酒を酌み交わしながら何ができるかを話し合い、美山木匠塾はヤタイを制作し、吉野貯木まちあるき＋スギダラ全国大会を盛り上げよう、という事になった。今回は対決ではないが、学生主体と考えている木匠塾としては、学生が前に出て活動できる場を頂戴できる事は大変ありがたい。重ねてありがたい事に、様々な企業から材料を支給頂き、ヤタイの制作に入る事ができた。多くの方に活動を支えて頂き、感謝の念に絶えない。

3 月28 日～29 日、吉野中央木材株式会社の工場を借り、ヤタイ制作の活動をおこなった。

　予定より制作時間はかかってしまったが、無事ヤタイは完成し、吉野貯木まちあるき＋第三回スギダラケ倶楽部全国大会においてお披露目する事もできた。今後も、スギダラに限らず様々なイベントで、このヤタイ「はしごしよう！」が活躍してくれる事を願いたい。

完成したヤタイ「ハシゴしよう！」のお披露目。写真手前左側は小仲美穂さん（京都府大３回生・学生幹事）、手前右側は角田吉史くん（摂南大４回生）、奥左側は永井麻美さん（京都府大１回生）、奥右側は伊藤良悟くん（摂南大４回生）
※学年は2013 年度時のもの

4.野望として

　モノを制作していく上では、形作るものが、どのように使われるのか、どのような未来がそこにあるのか、一種の野望を抱きながら取り組む事ができれば、結果はどうあれ、それはひとまず成功と言えるのではないかと思っている。野望そのものがコンセプトでもあるのだが、ヤタイ「はしごしよう！」は、ハシゴのように場所と場所をつなぐ要素になればと期待を込めたネーミング。また、誰かがこのヤタイを作りたい！と思えば作れるように、製作図や材料表を公開した。製作図を公開する事で、様々な地域、様々な人が、図面そのモノであっても、亜種のものであっても、ヤタイを制作する状況になれば、それはデザインそのものが発信型の地域貢献であり、それが縁となって、様々な地域間の交流につながっていくのではないか。どこかの大学や高校の文化祭の模擬店用に制作されないかと期待をしたりもする。結果として、吉野町に隣接する川上村の地域おこし協力隊の方が、スギダラ全国大会の後にヤタイ「はしごしよう！」を制作するという事で、川上村へお手伝いに伺った。
　このように、様々な地域で作られた「はしごしよう！」や、スギダラ関係の方が制作したヤタイを、美山木匠塾のホームベースである美山町に集め、地域のイベントを開催したい！という思いこそが「はしごしよう！」の野望であり、美山木匠塾が地域を飛び出して活動する理由の一つでもある。


川上村へヤタイ制作のサポートに伺う泉尾健太くん（神戸大４回生）		完成したヤタイに座る川上村地域おこし協力隊の神保大樹さん（左）と村上航さん（右）。

７月１２日より毎週土曜日このヤタイも活用しながら、川上村産の野菜の販売をはじめられる。彼らの活躍を期待したい。

5.さいごに

　そういえば、編集部からは、木匠塾とスギダラをテーマにして欲しいとの要望であったが、美山木匠塾の説明をする必要もあり、木匠塾の事しか書いてないのではないか！？という状態になってしまっている。木匠塾は学校の単位を認められる演習授業の側面もあるため、決してスギがスギェスキな人が集まっているわけではない。そして、大人は主体になってはいけない「学生特権の青春の園」でもある。その事から、木匠塾とスギダラの共通点は、「スギ」よりも「青春」でないかと感じている。スギスキスギな大人たちが繰り広げる真面目な大人の青春模様こそがスギダラ倶楽部ではないか。
　今回、美山木匠塾の学生たちはヤタイ制作、吉野貯木まちあるき、スギダラ全国大会を通して、大人と青春を共有してしまう非日常的で貴重な体験が出来たのではないかと思う。また、木匠塾VS スギダラというよりは、木匠塾＋木匠塾OB＋スギダラとなってしまったが、関係者や、この読者の興味は将来開催されるであろう（？）木匠塾VS スギダラにあるのではないか。その対決開催までに、木匠塾は粛々とスギスキスギな学生を育てあげ、悠々と対決に望めるよう力を蓄えてゆきたい。…ギスギスしない程度に。

　最後に、スギスキなご縁と、貴重な場を設けて頂いたうえ、大変お世話になった皆様に感謝申し上げたい。ありがとうございました！（そしてこれからも）

羽原康成< はばら・やすなり > 美山木匠塾塾長・事務局長
ah 主催、京都府立大学非常勤アドバイザー、摂南大学非常勤講師
スギダラケ倶楽部会員No.229