「ashiato」のキセキ（３）

特集　杉コレの普及

「ashiato」のキセキ（３）

文/写真羽原康成　

４．「足跡のダンス」から「ashiato」へ

f)　サイズから垣間見える日本の精神

　今回「ashiato」は４種のサイズにて展開している。そのサイズについて、インターネット上で「ashiato」が急速に知られていく中で、気づいた事がある。

普通、靴のサイズは足の大きさに合わせて、多くのサイズ展開が必要となる。しかも、自分の足のサイズより、多少なりとも大きいものを選択しないと、靴ずれ等の原因となる。場合によっては、履けなくなる、という意識を、私たちは常識だと思い込んでいる。そのため、下駄であっても、思わず靴と同じ感覚で、サイズを見てしまう。
思い出してみれば、僕自身「足跡のダンス」で下駄について調べるまで、気づかなかった、と言うべきか、知らなかったと言うべきか・・。それは、僕だけではなかったようだ。靴の文化に親しみすぎ、サイズを見て「履けない！」と、思わず嘆いてしまう方が多数おられた。

　実は、下駄は靴と違い、足の大きさに寛容なところがある。かかとを２～３cm下駄から出る状態で履くことが一般的。漫画などでたまに見かけるシーンだが、小さな子供が、親が履く大きな下駄を履いて歩く、といった事も可能だ。それは、こどもが成長過程でも、下駄であれば買い換える回数も少なくて済む、という事であり、細分化されすぎたサイズを、すべて製作する必要もない、ということ。エコなアイテムなのだ。そんな些細な事柄から、日本の「勿体ない」という言葉を支える、寛容な精神に気づかされる。こういった、日本の文化製品である下駄の特徴が「ashiato」によって、思い出されるきっかけになれば、幸いだ。

　例えば「ashiato」のなかで一番大きなＬサイズ22cmであれば、22cmが下駄の長さなので、それに2～3cm足した寸法24～25cm程度の足の大きさまで、許容できる事になる。
これは「ashiato」が、母親や、大人の女性も楽しめるアイテムとして考えている、という事でもある。kiko+は、こどものためのブランドだが、「ashiato」は、家族も含めて楽しめる。家族も幸せであってこそ、こどもたちは、より幸せになれるだろう。
「ashiato」は「こどものためのもの」であって、子供用という言葉とは、意味が異なる。

　また、「ashiato」は、足跡をつけまわる事で、その足跡を見つける周りの人も幸せにするアイテムだ。こどもたちは、自分の足跡だけでなく、他の人がつけた足跡も、見てみたいに違いない。ある程度、サイズに広がりを持たせることで、そういった多様なこどもたちの気持ちを、大切にする「こどものためのアイテム」となるだろうと、Kaz Shiomiと共に考えた。（今のところ、お父さんはごめんなさい・・）
「ashiato」に限らず、こどものためのブランドkiko+から発売された商品は、子供心を忘れずにいる大人たちも、十二分に楽しめるアイテムが揃っている。是非一度、チェックして頂きたい。

g)　MAISON & OBJET

　国際商品見本市は、一般的にイタリアで開催されるミラノ・サローネが有名だ。僕自身、ミラノ・サローネ以外の国際商品見本市という存在に対して、知識はゼロに近しいものだった。
２０１１年１月、フランス・パリで開催されるメゾン・エ・オブジェにおいて、新しいブランドのkiko+と、その商品を発表します。と聞いた時も、よくわからず、漠然と受け止めた。

幸いにも、プロダクトのデザイン・製作・販売をおこなう会社に勤めている友人がいたため、それらについて、話を聞く機会を得た。

　まず、イタリアで開催されるミラノ・サローネは、展示スペースをメディアに公にして行う国際見本市。メディア向けで、見た目に凝る傾向があり、見本市というよりは、ショー・スペース化している。そのため、本気で開発中の商品を、バイヤーに売り込もうという人たちは、その情報が表に出るのを嫌い、避ける傾向にあるという。
メゾン・エ・オブジェは、フランス・パリで開催される。ミラノ・サローネに並ぶ世界有数の商品見本市だ。内部での撮影は制限され、あまり表にその内容が出る事はない。そのため、日本においては、ほとんど報道される事がなく、一般にはあまり知られていない。世界各国から集まるバイヤーが支払う入場料も安くない。だからこそ、秘密が漏れては困る本気のメーカーや、新しいものを求めるバイヤーが集まり、極めてよい評判だ、という事だった。

　（株）Kukkiaの動きからは、本気でkiko+を世界に売り出していこう、という勢いを感じる。「ashiato」がはじめてお披露目となる桧舞台、もとい、杉舞台は、是非とも見に行かねばと、Magnetもパリ入りする事にした。実際のところ、設営・運営に関しては（株）Kukkiaのみなさんがつきっきり。僕たちは、訪れた一週間のうち、メゾン・エ・オブジェへ出向いたのは二日だけだ。その日以外は建築巡りという、単なる旅行状態であった事は、言うまでもない。

　メゾン・エ・オブジェでは内部の写真撮影は基本的には禁止されているため、ゲートを撮影してきた。その規模は、丸一日、早歩きで見回っても全てを見きれない、大変なボリュームだった。
（株）Kukkiaのブースで、少しのんびりとさせて貰っている時のこと。通り過ぎようとする人たちが、これはなに？という感じで「ashiato」に気づいて立ち止る。少し考えて、足跡がつくとわかると、思わず頬が緩む。間違いなく、そこで目の色が変わる。そのシーンを見ながら、一般公開時の杉コレクションを思い出していた。その時も、沢山の人たちが、同じように目の色を変え、足跡のダンスに見入っていた。世界のどこの人であっても、この下駄が生みだす楽しさと、それに気づいた時の驚きは変わらないのだなと、確信した一瞬だった。
最後に、わざわざ用意してくれたワインで乾杯し、僕はメゾンを後にする。

メゾン・エ・オブジェ　最寄駅　　集成材による庇。ざっくりとした納まりに目がいく

Hall 6 Gate その巨大な規模に圧倒される

（株）Kukkiaのブース

５．新たな遠心力をもって

a)　終わらない宿題

　ようやく終章。さらさらっと書くつもりが、思っていた以上に、長々と書いてしまった。
杉コレクション2005から６年目の2011年６月。「足跡のダンス」は、kiko+の「ashiato」として、ようやく、本格的に売り出せる形での商品化となった。色々あったが、杉コレクションからはじまり、ART　ZOO展、kiko+の誕生と、どれかひとつでも欠ければ「ashiato」は生まれなかった。今まで、様々な場所で関わって頂いた、全ての方に、心から御礼を申し上げたい。

　ただ、商品化できたからこれで終わり！ではない。「杉の普及」という宿題は、長い時間をかけてでも解決しなければと、本気で考えている。一度、商品化という形で落ち着いた事で、これまで学んだ新たな視野でもって、様々な可能性を探っていけるのではないか。それは当然、Magnetだけで解決できる問題ではない。これからも、様々な方に助力頂く事になるだろう。Magnetは単に無知なのかもしれない。様々な情報も、頂く機会があれば、非常にありがたい。宿題はまだまだ終わらないが、諦めない限り、杉の普及に向けた何らかの動きは可能ではないかと、期待している。

b)　キセキ、これから

　販売が開始された６月以降「ashiato」は様々なTV番組・新聞・WEBサイトといったメディアで紹介され、口コミとも言えるツイッターや、フェイスブックなどにおいても、広く情報が拡散している。ツイッターにおいては、「歩くと、にゃんこの足跡が残ります。」と書かれた「ashiato」の写真が、６月２４日の画像ランキング１位に、異なる「ashiato」の写真も十位圏内に入るなどし、世の中において、急速に知られる要因の一つとなった。それらの勢いは、日本に留まらず、海外においても、多くのメディアへ伝播している。「足跡のダンス」から広がる可能性は、今回の「ashiato」だけではない。残された宿題を解決していくためにも、今後も、より世の中に知られ、愛されるアイテムとなって欲しい、と思う。

「ashiato」は未だ、未知数の可能性を秘めている。
これからのキセキを描くために。

「ashiato」

（株）Kukkia	http://www.kukkia.co.jp/
kiko+	http://www.kiko-kids.com/
Magnet	http://plaza.rakuten.co.jp/magnetblog/

●<はばら・やすなり>　
川上村木匠塾OB、杉ダラケ倶楽部会員No.229、2005年よりMagnet。
大きなものから小さなものまで、行き来できるような活動を目指している。